頭痛が治まるまでしばらく、そのままの格好でじっとしていた。

近くにある理容室から、トランペットで吹いているみたいな愉快な音楽が聞こえる。

6時になった合図だ、あの店はいつも、12時と6時にあの音楽を鳴らす。


店の中はすっかり真っ暗闇だった。

外の街灯が点き始めたおかげでうっすらと物の輪郭は分かるけれど、さすがに電気を点けなければまともに動けない暗さだ。

外は、クリスマスのイルミネーションを半分残したままの鮮やかな光が灯っていて、たくさんの人がこれから訪れる夜を楽しもうと行き交っている。

なのに、ここはこんなに暗くて、静かで、わたしだけが、息をしている。


まるで違う空間みたいだ。

小さく仕切られた、わたしだけの場所。


5年前から止まったままのわたしを囲む、世界から置いて行かれた、場所。




まだ重い頭を軽く振って立ち上がった。

今日はもう帰ろう。

そう思い、鞄に手を伸ばしかけたところで、コツン、と鳴った微かな音に気が付いた。


足元を転がる小さな影。

違和感を感じる首元。


外の灯りを反射させ、一瞬光った、赤黒い輝き。


「あ……」


言葉にならない声を漏らすと同時に、胸の奥がドクンと疼いた。

不快なリズムが全身で刻む。

言いようのない思いが、頭の中を駆け巡る。



「……ハルカ」



足元に転がった、赤黒い石。

切れたチェーン。


わたしの肌から離れた、わたしときみの繋がりを示す、証。