どのくらい、そうして頭を空っぽにしていたんだろう。

ふいに激しくなった頭痛に手を止めると、随分と時間が経っていたことに気付いた。


頭痛は朝から続いていた。

だけどそれは、体調の悪さから来ているものじゃない。


たぶん、昨日の夜、思い出したくはないことを、思い出してしまったからだろう。

「思い出す」という言葉すら、使いたくはないもの。

思い出になんて決してしたくはないもの。


だけど、もう、“思い出”に、なってしまったもの。



ガラスを拭いていた布巾を置いて、平台に体を預けるようにしゃがみ込んだ。

出来るだけ小さくなって、両手で頭を抱える。

ぎゅっと、自分で自分を抱き締めるように。



『コハル、大丈夫?』



ハルカが居たら、きっとそう言って頭を撫でてくれる。

それはどんな薬よりも、わたしの悪いところに効く。

痛みなんて全部飛んでく。

だけどきみが心配してくれると嬉しいから、「大丈夫じゃない」ってわたしは言う。

そしたらきみは「そりゃ大変だ」ってちっとも大変じゃなさそうに笑って、だけどわたしが大丈夫って言うまで、側に居てくれるんだ。



『瑚春、泣いてんの?』



ああ、もう、ほんとに、そういえば。

あいつも同じだった。

わたしが勝手にいじけて布団に潜り込むと、すぐに余計なおせっかいを焼いてきた。

そんなのいらないのに、必要ないのに、わたしが突っぱねてもあいつは、ずっとわたしの側に居た。


なんでか知らないけど、ハルカみたいに、わたしの側に居てくれたんだ。