そう、どんなものよりも。
わたしにとっては、わたしが一番いらないものなんだ。
一番執着がなくて、一番どうなってもいいもので。
一番、すぐに、消し去ってしまいたいもの。
冬眞が、何か言いたげに顔を歪めた。
だけどそれに答えるのは面倒で、見ず知らずの他人に話したいことでもないから、わたしは話題をすり替えるように立ち上がり、ついでに目の前の男の襟首を引っ掴んだ。
外では分からなかったけれど、明るいところで見たら随分と汚いことに気が付いた。
一体どこをどれだけほっつき歩いていたのか知らないけれど、そんな汚れた状態で部屋をうろちょろされるのも困る。
ちょうど前の彼氏が置いていったスウェットが残っていたから、着替えにはそれを使わせることにした。
下着も痴漢対策にと大家さんがくれて一度も使っていないものがあって、たぶん今後も使わないから冬眞にあげた。
シャワーの音が、半透明のドアの向こうから聞こえている。
「バスタオル、洗濯機の上に置いとくね」
「ああ、ありがとう」
脱衣所から声を掛ければ、シャワーの音と共に声が返ってくる。
わたしはエコーの混ざったそれを聞きながら、音を立てないように静かに、籠に積まれている冬眞が脱いだ服に手を伸ばした。
着ていたシャツとジーンズ。
これじゃあまるでわたしが変態みたいだなと思いながら、それをポケットから裏側から何から全部探ってみるけれど。
……やっぱり、何も持っていない。
コートも調べてみたけれど、冬眞は携帯も財布も何も持っていなかった。
まさかそんなはずはないだろうと思っていたけれど、だけど、どう探したって、なんにも持っていないんだ。