わたしは葬式にも出ず、春霞の姿も見ずに、春霞がプレゼントにと用意してくれていたコートといくつかの荷物だけを持って、家を出た。
春霞が居なくなったなんて、いつまでも、信じることは出来なかった。
思い出にはしたくなかった、だけど見ればたくさんのことを思い出してしまうこの町の景色は、わたしにとって、耐えられるものではなかった。
大学も辞めた。
もう二度と、この町には戻ってこないつもりだった。
行く当てなんてなかった。
どこに行ったってよかった。
ただ、できるだけ、海の近い小さなあの町とは、似ても似つかない遠くの知らない場所に、行きたかった。
わたしの世界は、春霞が死んで、時を止めた。
いつまでも、向かう場所がわからない。
歩いていても、どこへ向かっているのか、本当に歩いているのか、わからないんだ。
きみは嘘吐きだね。
どこに居たって、呼んだら来てくれるって言ったくせに。
どれだけ名前を呼んだって、喉が切れるくらい叫んだって。
きみはわたしを、見つけてはくれない。
ねえハルカ、お願いだよ。
会いたいんだよ、きみに。
頭を撫でてほしいんだよ、笑ってほしいんだよ。
『コハル』
そう言って、ぎゅって、わたしを、抱きしめてよ。