「……ハルカは、手術すれば治るの? ちゃんと、治してくれるの?」
父に掴まれていた腕を伸ばし、今度はわたしが父の腕を掴んだ。
分厚いセーターがわたしの指の間で、深い皺を作る。
だけど父は、わたしが望む言葉を、返してはくれない。
「……違う。そういう、手術じゃない」
うな垂れた首を横に振り、色を失くした唇の隙間から小さく息を漏らした。
わたしは強く、縋るように、力の抜けた父の体を揺さぶる。
「そういうのじゃないって、どういうこと」
「脳死と判断された時点で、春霞は完全に死亡したことになる。もう、治らない」
「だから!」
「春霞は……これを持っていたんだ」
おもむろに取り出したのは、1枚の小さなカード。
いつか見たことのあるような、覚えのある、それ。
『ねえ、なにそれ。なにしてたの?』
『ん、これ? コハルも書く?』
そう、わたしがプレゼントの希望を訊きに行ったとき、春霞が書いていたものだ。
黄色い、真ん中に天使の絵が描かれたカード。
「……春霞が決めたことなんだ。脳死になったら、春霞の体は別けられて、他の人のところへ行く」
なに、それ。
なんで、そんな。
ハルカは、ずっと、わたしの隣に、居るはずなのに。