ドクン、ドクン、と、心臓の音が耳元で響いている。
これはわたしの心音だろうか、それとも、今もまだ鳴っているはずの、きみの音だろうか。
「……瑚春」
父の表情が僅かに歪む。
いつものんきで飄々とした父の、こんな表情を見るのは、今が、初めてだった。
そういえば、母の涙を見たのも初めてだ。
父も母も明るくて、滅多に怒らないし、いつも笑っている人だから。
ああ、そっか、春霞はふたりに似たのかな。
きみも同じだもんね。
うちの家族で、泣き虫で怒りん坊なのはわたしだけだ。
いつもいつも、わたしがみんなを困らせてばかりだから。
だから、ねえ、こういうとき、どうしたらいいのかわからないんだよ。
ハルカ、お母さんが泣いてるよ。
ハルカ、お父さんも笑っていないよ。
ねえハルカ、教えて、わたしはどうすればいいの。
ねえ、きみは今、どこに居るの。
見つけられないよ、ハルカ───
「春霞は、死んだ」
きみの声が、聞こえないから。