だけど、なんでだろう。

わたしの中でくすぶる違和感が消えない。


春霞は無事だとわかったのに。


得体の知れない感覚が、いつまで経っても、ぐるぐると渦巻くように真ん中らへんを掻き回す。


どうしてだろう。

なんでだろう。

この違和感はなんなのだろう。


いつもと違うんだ。

何が違うのかわからないけど。


だけど、何かが、“足りない”んだ。


何かが、何が、足りないんだろう───




「……っう、うぅああ……!」


静かな廊下に嗚咽が響く。

ワックスの塗られた床に落ちても、涙は決して染みにはならない。


目の前の母の、細い肩が震える。


なぜ、彼女が突然泣きだしたのか、わたしには、わからない。




「……瑚春、よく、聞くんだ」


ぼろぼろと涙を流し続ける母の代わりに、父がわたしの腕を掴んだ。

痛いくらいに握り締める手は、まるでわたしが逃げないための枷みたいだ。


そう、だけど、きっと、本当にその枷がなければ、わたしはすぐにでもその場から逃げていただろう。

父の口から語られるであろう言葉を聞くことを、体中が拒否している。

聞きたくはない、知りたくもない。

───それは、どうして?


そう、本当は、わかっていたんだ。


感じていた違和感。


何が足りないのか。



だって、さっきから、聞こえないんだ。


きみの……