春霞が事故にあったと、公園にいたときに連絡が入った。
距離がある場所にいたわたしが病院に着いたのは連絡があってから1時間後、春霞が事故にあったときからはすでに数時間が経っていた。
「ねえ、ハルカは……ハルカは、大丈夫なんだよね」
いつからか、わたしよりも背が低くなった母の肩を掴んで、掠れた声を吐き出した。
唾を呑み込むことさえ困難なほどに、喉がからからに乾いている。
ひどい眩暈もした。
脳がぐらんぐらんと揺れているみたいだ。
何もかもが安定しない。
ああ、こんなとき、きみに、側に居て欲しいのに。
「春霞は……車にぶつかったんだって。道路に飛び出した猫を、助けようとして」
「だからなに」
「瑚春へのプレゼント持ってた。コートと、可愛いお花」
「そんなことはどうでもいい、ハルカはどうしたって訊いてるの」
「……外傷は少ないみたい。目に見える怪我はそんなにない」
「じゃあ、無事なの? どうってことないの?」
早口で捲し立てるわたしとは裏腹なたどたどしい母の口調に、もどかしさを覚え苛立ちが募る。
乱れた呼吸はずっと直らない。
母の、白髪雑じりの短い髪が、まとまりになって額を滑った。
「春霞の心臓は……今もちゃんと、動いているわ」
ふっ、と。
体中から、力が抜けるようだった。
「そう……なんだ」
ひとつ大きく息を吐いて、母の肩を掴んでいた手をだらんと下ろした。
……よかった、春霞は、無事だった。
大丈夫だったらそれでいい、怪我が少ないなら安心だ。
まったく、猫を助けようとしただなんて、なんてきみらしい理由だろうね。
ほんとに、心配を掛けさせて。
怒りたいけど、怒らないから、代わりにとっとと治して、早く、わたしの隣に帰ってきて。