何もかもが、信じられなかった。
誰の言葉も、自分の耳も、どんなものも、すべてのことが。
信じられなかった、信じたくなかった。
信じる気なんて、ひとつもなかった。
◇
母から掛かった1本の電話。
不明瞭な彼女の言葉を聞き取ることは難しくて、でも、だからこそ、思いがけない事態が起こっているんだということを理解した。
真冬なのに、体中に汗が滲んだ。
肺が酸素を過剰に受け入れようとする。
耳鳴りがする。
心臓がどんどんと胸の内側を叩いている。
頭の奥で、きみの声が響いている。
「……ハルカ!!」
隣町にあるこの辺りで一番大きな総合病院。
通常の見舞い客は入らないような暗い廊下の奥で、両親がわたしを待っていた。
病院の独特の臭いが濃い、異様な雰囲気の場所だ。
「あ……瑚春」
「ねえ、ハルカは? 何があったの、大丈夫なの? どこに居るの?」
「瑚春……少し、落ち着きなさい」
「ハルカはどこって訊いてるの!!」
ソファに力なく腰掛けていた父と母に詰め寄り、そこには居ない家族の名前を叫んだ。
苦しい。痛い。
体中が悲鳴をあげている。
ハルカ、ねえ、ハルカ。
聴こえてるんでしょ、応えてよ。
わたし今すごく苦しい、ひとりじゃどうしようもならない。
早く来て、走って来て、迎えに来て。
名前を呼んで、笑って、頭を撫でて、ぎゅっと、抱きしめて。
ねえ、ハルカ───