何もかもが、信じられなかった。


誰の言葉も、自分の耳も、どんなものも、すべてのことが。


信じられなかった、信じたくなかった。

信じる気なんて、ひとつもなかった。







母から掛かった1本の電話。


不明瞭な彼女の言葉を聞き取ることは難しくて、でも、だからこそ、思いがけない事態が起こっているんだということを理解した。


真冬なのに、体中に汗が滲んだ。

肺が酸素を過剰に受け入れようとする。

耳鳴りがする。

心臓がどんどんと胸の内側を叩いている。


頭の奥で、きみの声が響いている。





「……ハルカ!!」


隣町にあるこの辺りで一番大きな総合病院。

通常の見舞い客は入らないような暗い廊下の奥で、両親がわたしを待っていた。

病院の独特の臭いが濃い、異様な雰囲気の場所だ。


「あ……瑚春」

「ねえ、ハルカは? 何があったの、大丈夫なの? どこに居るの?」

「瑚春……少し、落ち着きなさい」

「ハルカはどこって訊いてるの!!」


ソファに力なく腰掛けていた父と母に詰め寄り、そこには居ない家族の名前を叫んだ。


苦しい。痛い。

体中が悲鳴をあげている。



ハルカ、ねえ、ハルカ。


聴こえてるんでしょ、応えてよ。

わたし今すごく苦しい、ひとりじゃどうしようもならない。


早く来て、走って来て、迎えに来て。


名前を呼んで、笑って、頭を撫でて、ぎゅっと、抱きしめて。



ねえ、ハルカ───