そのとき、ふいに、春霞の声が聴こえた気がした。
わたしを呼ぶ、春霞の声。
おもむろに振り返る、けれどもちろん春霞は居ない。
あたりを見回してみても、姿なんてどこにもなくて。
『 コハル 』
ずっと春霞へのプレゼントを考えていたから、そのせいで無意識に声を思い出したのかもしれない。
いやだなあそんなの、まるでわたしの中のほとんどが春霞で占められているみたいじゃないか。
そんなことないのに、わたしにはもっともっとたくさんの、楽しいこととか好きなことがあるっていうのに。
だけど、そう、それはきっと、きみがわたしの隣に居るからこそのものなんだって、それは、認めるしかないけれど。
楽しみだ、明日がすごく楽しみだ。
明日が待ち遠しいというのは、歯痒いけれど、異様なくらいにわくわくする。
春霞はなんて言うだろう。
本当にちゃんと喜んでくれるかな。
わたしには何をくれるんだろう。
きっと、わたしもなんでも喜ぶと思うけど。
早く、明日になればいいのに。
わたしと春霞が一緒にこの世界に生まれてから20年目の特別な日が、早く、今に、なればいいのに。
そう思いながら空を見上げた。
晴れた日の冬の空は、どこまでも、透明だった。
───しばらくして響いたのは、無機質な携帯の着信の音。
それは、わたしの世界を止める、合図になる音だった───