計算のうちなんだろうか。ここまで来てからこう言えば、もう付いてこさせるしかないからって。
……いや、警察を呼ばれる可能性のほうが高いから、それはないか。
なんか、ほんとに、変なやつ。
「いやあ、瑚春は世界で一番いいやつだな」
「ほんとだよね。たぶんもうこんなこと二度とないけど」
というよりも、二度もあったら神様を呪う。
「……言っておくけど、おかしなことしたらすぐ警察呼ぶからね。もしくはあんたをフライパンで殴るからね」
「大丈夫だって。大人しくします。俺はいい子です」
ほんとかよ、と言わない代わりに何度目かの溜め息を吐いたら、冬眞はなんだか嬉しそうに笑っていた。
わたしはそれを横目で見ながら階段を上がり、角にある自分の家へ向かった。
玄関の前にはランプの形をした電気が下がっている。
この間、切れかけていた電球を大家さんがLEDに取り換えたばかりだ。廊下を照らすその明かりは、妙に眩しくてどうにも目を伏せてしまう。
鍵を開け、中へ入った。
いつもは暗い部屋の中へひとりで帰っていたけれど、こうして誰かとふたりで、なんて、一体いつ以来だろうか。
そんなに久しぶりじゃない気もするけれど、変に、落ち着かない。