どんなものを用意しようかと悩み続けて、とうとう年も越してしまった。

誕生日まではあと数日。

もうこの際春霞が欲しいと言っていたものにしようかと思い至っても、そうなると軍資金の調達に困る。


高校を卒業してから、お年玉は貰えなくなった。

資金源はもっぱら、バイトで稼いだなけなしの給料だ。

わたし自身であげようと決めた時計は絶対に買ってあげたいから、そうなると他のものは必然的に低予算でというきまりが出来てしまう。

ケーキでも作ろうかと一度は考えもしたけれど、わたしの料理の下手さは家族親戚友人、つまり身近な人たちもれなく全員のお墨付きをもらっている。

不可能だ。



どうしたものかと、大学から最寄駅までのいつもの商店街をふらふらと歩いていた。

正月休みを挟んでいたから、大学に来るのは久しぶり、つまりこの道を歩くのも実は数週間ぶりのことだ。

だけどもちろん、決して長期間とは言えないこの間に街の風景が一変するわけもなく、そこは年末となんら変わりのない見慣れた景色があるばかりだった。


だけどそこでふいに気付いた。

よく立ち寄ることもあるファーストフード店の軒先、いくつも並んだ白いプランターに植えられた小ぶりの花。

年が明ける前にはなかったはずのその店の装飾に、一瞬思考が動きを止めた。


失くしたわけではない、けれど忘れていた古い古い記憶が戻ってくる。


カラフルな小ぶりの可愛らしい花。

手書きの小さな秘密の地図。

赤いマウンテンバイク。

知らない町。



───そうだ、あのとき、結局あげられなかったものがある。


どうしてもあげたかったのに、あげられなかったもの。

それを今、もう一度、きちんときみにプレゼントしよう。


鉢植えにリボンを結んで、きみに似合う色の、ビオラを。