……そんなに買えるわけがない。
天体観測ドームってなに。
そもそも車があれば、クロスバイク、いらないと思うんだけど。
「……やっぱり自分で考えるよ」
「なに、そう?」
「楽しみにしてて……」
「うん、わかった。楽しみにしてる」
本当に楽しそうに笑う春霞に、わたしは引きつった苦笑を返して。
敵わないなあと思いつつ、やっぱり自分で悩まなければいけない結果に少しうんざりした。
と、踵を返そうとしたところで、春霞の机の上につと目が行った。
わたしが来るまで、そこに向かって何かをしていた春霞。
「ねえ、なにそれ。なにしてたの?」
「ん、これ?」
わたしの視線でそれと気付いたのか、春霞が机の上のものをひらりとつまむ。
「コハルも書く?」
「いや……いらない」
「そう」
即答したわたしに、けれど春霞は気にした素振りも見せず、持っていた黄色いカードを机の上に戻した。
「じゃあね」わたしは軽く手を振って、開けっ放しにしていたふすまの隙間を通り抜ける。
「……ねえハルカ、ほんとに、どんなものでもいいの?」
ふすまを閉める前に、もう一度、しつこいかと思ったけれど確認のために訊いてみた。
春霞が小さく息を吐いて眉を下げる。
「いいよ。コハルがくれるものなら、なんでも嬉しい」
「……歯磨き粉でも?」
「もちろんだよ。あんまり辛くないのだと、なおのこと嬉しい」
「オッケー。参考にする」
ぱたん、と音を立ててふすまを閉めた。
もちろん、歯磨き粉を買う気なんてさらさらない。