「ねえハルカ」


その日は偶然にも、昼間っからわたしも春霞も家に居た。

お互い大学があったりサークルがあったり飲み会があったりで、大抵夜か朝早くにしか顔を合わせることがなかったから、こうして昼間に顔を見るのは随分久しぶりのことだった。


ふすまを挟んで隣の部屋、春霞の部屋にそっと忍び入ると、春霞は机に向かって何かをしていた。

ノックなんてしないのは今に始まったことじゃないからもちろん怒らない。

春霞が振り返って、首を傾げる。


「ん、なに?」

「次の誕生日プレゼント、何が欲しい」



そう、こんなもの本人に訊いてしまえば簡単なんだ。

欲しいものを用意してあげればいい。

サプライズ感はゼロどころかマイナスだけど、そのあたりは用意する品でカバーしよう。


「うわ、コハル、サイテー」


そう、たとえこんなことを言われたとしても、カバーできる、はず。


「だって何あげたらいいかわかんないし」

「何でもいいって。それに俺いつも楽しみにしてるんだから、そういう楽しみをぶち壊すようなことしないでくれる?」

「いやいやもちろん、秘密のプレゼントも渡すよ。でもそれ以外にさあ、なんかあるかなあって思って」

「あったら買ってくれるの?」

「……出来るだけ、ご要望にはお応えしたい」

「なら、もちろん、あるにはあるけど」


顔を歪めた春霞が、おもむろに両手を広げた形で持ち上げる。


「車でしょ、クロスバイクも欲しい、レザーの財布にスニーカー、柴犬、この間見つけたヴィンテージのジーパン、あと天体観測ドームと、紅茶の茶葉と、切れてた歯磨き粉と」


単語がぽろぽろ出るたびに折られていく長い指。

その両手が閉じられてしまう寸前で「もういいです」わたしは春霞の口を止めた。