「うーん……」
「あ、まだ疑ってる?」
「そういうわけじゃないけど」
だって、ずっとずっと遠くに居るはずのわたしの呼ぶ声が聞こえるなんて、そんなこと。
「だったら試しに」
春霞が、ついと足元を指差した。
悪戯気に、でも優しく笑うその顔は、たぶん、わたしにしか見せない顔。
わたしだけが知ってる顔。
わたしだけに、見せてくれる顔。
「あの星の裏側で俺の名前を呼んでみてよ。
どこに居たって見つけてあげる」
かじかんだ指先。
すっかり冷えた冬の空。
両手をポケットに突っ込んで、人工の光が照らすきみの姿を横目に見る。
「……そんなこと言ったら本当に呼ぶよ」
「いいよ。いつでもどうぞ」
「絶対来てくれる?」
「あたりまえだよ。走って行く」
転がっていた小石を蹴る。
ころころ跳ねたそれを、今度は春霞が蹴飛ばした。
「どこに居たって見つけてあげる。コハルが俺を呼ぶならね」
吐き出した息が白く濁る。
それを見て、ああ冬だなあ、なんてどうでもいいことを考えた。
寒いのは好きじゃなかった。
でも、冬は、結構、好きだった。