「コハルの呼ぶ声が聞こえるんだよ」
街灯に照らされた下で、春霞がのんびり笑った。
柔らかい髪は、わたしのと同じ色をしている。
「そんなわけないじゃん、あほか」
「コハルほどじゃないよ。それに、ほんとに聞こえるんだ」
「わたしがハルカを呼んでるのが?」
「うん。その声を追いかけてたら、いつもちゃんとそこにコハルが居る」
今回だって、そうだったでしょ。
そう言われてしまうと、言い返す言葉がない。
確かに春霞はいつもわたしを見つけてくれる。
どんなところに居たって、ちゃんと探し出してくれる。
「コハルだってそうでしょ」
「なにが?」
「俺がなんとなく落ち込んで、コハルに側に居て欲しいって思うとき、いつも来てくれる」
「そうなの?」
「なに、自分で何も思ってないわけ」
「いやあ、なんとなく、今ハルカのところに行った方がいいかなあって思ったりもするけど」
あ、そうか。
そういうことなのかな。
ときどきふと、今、春霞の側に居なきゃいけないって思うときがある。
何の突拍子もなくそう思って春霞のところに行くと、いつも春霞は安心したように笑って、わたしをぎゅっと抱きしめた。
そうか、そういえばわたしも、何も疑問に思ってなかったけど、ああいうとき自然に春霞の居る場所がわかっていた。
それがいつも、春霞が落ち込んでいるときだったのも偶然じゃなかった。
側に居て欲しいって呼ぶ春霞の声が、わたしにも、聞こえていたんだろうか。