「あのときは驚いたなー。こんなところにいたの、って言ってるそっちはなんでこんなところにいるんだ、って思った」

「はは、コハルすっごいびっくりしてたもんね。で、そのあと鼻水だらだらで号泣」

「今日とおんなじだ」

「小学生の頃からまったく成長してないんだ、コハルは」


長い電車の旅を終えて、よく見知った地元の駅で降りた。

ここからは、目を瞑ってでも歩ける、何度も通った家までの道。


途中、夜中までやっているたい焼き屋さんであんこのたい焼きを2個買った。

ひとつは春霞、ひとつはわたし。

春霞はいつも尻尾から齧って、わたしは反対の頭から齧る。

「なさけない男だなあ」とわたしが言って、「薄情な女だなあ」と言い返されるのが毎度の決まり。


「コハルってどこかの中に入り込む癖があるよね。今日もそうだったし。あれ見つけにくいからやめてくれない?」

「どこかに入ってると安心するんだよ」

「見つけて欲しいのか隠れたいのかわからないって。まさかあんなところに居るとは思わなかった」

「でもほんとにさ、あのときもだし、今日もだけど、なんでハルカってわたしの居る場所がわかるの?」


ビオラを探して迷子になった子どもの頃、遅くなっても帰らないわたしを心配して、両親や隣のおばさんなど、ご近所の大人総出でわたしを捜索していたらしい。

だけど、わたしがよく遊びに行っていた場所をしらみつぶしに探しても、一向にわたしは見つからない。

あたりまえ、そんなところにわたしは居なかった。

まさか隣町の隣町という遠くまでわたしが行っているなんて、大人は夢にも思っていなかったわけだ。


そんな中、泣きすぎてぐしゃぐしゃになったわたしを連れて戻ってきたのが、春霞だった。


そう、春霞だけが、わたしを見つけてくれたのだ。


そのときは家に帰れたことが嬉しかったし、大人たちも無事だったことに安心して、誰も不思議に思わなかった。

春霞がわたしを見つけられたことに。



「……やっぱり、発信器つけてるんでしょ」

「なに、つけてほしいわけ?」

「嫌だけど……でも、なんでかなって」


わたしが春霞に側に居て欲しいとき、必ず春霞は来てくれた。

側に居て欲しいと、自分では気付いていないようなときでさえ、春霞はわたしの側に居た。


それがあたりまえだった。

あたりまえだけど、不思議だった。


春霞は、なんで、わたしを見つけられるんだろう。