完全に迷子だった。
地図の通りに来たはずなのに、どこで間違えたのか、そもそも地図が間違っていたのか。
とにかくすでに尋常じゃない距離を進んでいるのに、一向に目的地に辿り着けない。
冬の昼は短い。
もうあと数十分もしないうちに、夜がやって来てしまうだろう。
……どうしよう。
こんな知らない場所で、夜になんてなってしまったら。
……ひじょうにやばい。
だめだ、もう今日は帰ろう。
ビオラを摘めないのは残念だけど、また今度、春霞と一緒に来ればいい。
問題ない、大丈夫。
そうだ、早く、帰ろう。
マウンテンバイクをUターンさせて、今の今まで辿って来た道と向かい合う。
だけどそれからはもう、わたしの足が動くことはなかった。
泣いてるわけじゃないのに、視界が不鮮明にぼやける。
脳みその奥が鳴っている。
心臓が、どくんどくんと強く波打つ。
……ねえ、わたし、どこから来たんだっけ。
どうやって来たんだっけ。
わからない。
どの道を進んできたのか、どうやってここまで来たのか。
わからない、ここはどこだろう。
どうしよう、だめだ、むりだ。
帰る道がわからない。
家に、帰れない。