隣町の隣町は決して遠いわけではないけれど、まだ10年も生きていないあほなガキのわたしには、日本からアラスカに行くのと同じくらい遠く果てしない旅だった。
いつもは両親や春霞と車に乗って行くような場所へ、今日はたったひとりで自転車に乗って向かうのだ。
人生で最大の冒険。
ギアを一番重くして、ひと漕ぎでたくさん前に進む。
よく行くスーパーを横目に見て、祠の前では頭を下げて、川を渡って、こわい犬がいる家の前はもうちょっと速く。
ビオラの咲く丘までは、一体どのくらいで着くのかな。
一面がお花畑らしいから、きっとすごく綺麗なんだろう。
景色はちょっとずつ知らないものに変わっていくけど、それがむしろわくわくを誘う。
今、どのあたりまで来たかな。
もう半分くらいは走っただろうか。
知らない町、知らない人。
でも、不安なんてない、だって春霞のために綺麗なお花を摘みに行くんだ。
わたしに、できないことなんてない。
夕暮れ時というのは、なんでこんなに寂しいものなのだろう。
あの太陽は朝とか昼に見ているものとまったく同じはずなのに、どうして今はあんなにも哀愁が漂っているのか。
やっぱり、沈んでいく、ってところが、どうしても切なさを生んでしまうのかな。
太陽的には沈んでいるわけじゃなくて、ただ単に移動しているだけなのに。
いやむしろ移動してるのは、こっちの地面の方か。
“ちどうせつ”ってやつを、星の図鑑でこの間読んだ。
ってことは、今はどうでもいい。
本当にどうでもいい。
───ここは、どこだ。