どうにか間に合った最終電車に乗って、今度はふたりで、2時間の旅を過ごした。
揺れる電車の中は、こんな時間だからか乗客はまばらで、なんだか貸し切っているような気分になる。
時々流れるアナウンス、一度だけ往復をした車掌さん。
窓の向こうは真っ黒で、こっちの景色が映っているだけ。
おかげで今通っている場所が、見知った場所かもわからない。
目の前の窓ガラスに、泣き腫らして汚い自分の顔、そしてその隣に、春霞の顔。
「……ねえ、ハルカ」
呼ぶと、窓ガラスに映った春霞の顔がこっちを向いたから、わたしものそりと視線を変えて、隣の春霞と目を合わせた。
「なに?」
「ハルカって、わたしに発信器でもつけてる?」
春霞がこてんと首を傾げる。
それから少し考えるような間を空けてから、ちくりと口元だけで笑った。
「つけようかと、考えてはいる」
「う……」
やばいぞ、この顔は。
笑っているけど笑っていない。
滅多に見られないレアな表情。
だけど見たいわけじゃない、むしろ見られないならそれが一番。
どうやらただ今うちの弟は、とっても珍しく怒っているらしい。
そりゃそうだ、いつも必ず持ち歩いているはずの携帯を置いて行方不明になるなんて、心配しないわけがない。
携帯を見つけたときとか、わたしが居なくなったことに気付いたときとか、一体春霞はどう思ったんだろう。
どれだけ必死にわたしを探してくれたんだろう。
……それくらいは、訊かなくてもわかる。
だってもしも逆の立場だったら、わたしはきっと国家機関ですら使って探すに決まってる。
心配で、不安で、怖くて、たまらなくて。
一秒でも早く見つけたくて、いつまでもきみの名前を呼んで、いつまでもきみの声を探し続ける。
そう、きっと、きみもおんなじだろうから。