だけど当たり前のように、そんなたかが気のせいに惑わされて、変な他人の言うことを聞いてやるほどわたしはお人よしじゃないし、馬鹿でもない。
冬眞が変なことを言い出した途端、「絶対いやだ」と一言告げて、わたしは再び人ごみに紛れ込んだはずだったんだけど。
気付けば、ストーカーにしては堂々と、後ろを付いてきていたものだから。
「……さすがにそろそろ警察呼ぶけど」
アパートの門の前。
もういなくなってたりしてと僅かな期待を込めて振り向けば、それは粉々に打ち砕かれて。
「なんで?」
と首を傾げる姿に、盛大な溜め息が漏れる。
「わあ、俺女の子にそんな溜め息吐かれたの初めて」
「そりゃどうも。あんたの初めての女になれて幸せだわ」
もう一度大きく息を吐いて、アパートの門をくぐった。
その先は吹き抜けになっていて、それを囲むように四角く居住スペースが建っている。
地元出身のデザイナーが、南欧をイメージしてデザインしたらしいモダンな建物。
ここに住む際の一番の決め手は当時新築だったことだけど、ここの異国情緒な雰囲気は今でも気に入っている。