なんで、付いてきているのか。

あの男。


「……ねえ、わたし、付いてきて良いって言った覚えないけど」


振り返らないまま呟くと、冬眞は声を掛けられたことに気をよくしたのか、とことこと早足で駆け、わたしの隣に並んだ。


「だって俺行く場所ないしさあ。ほら、困っている人を見たら助けなさいって、小学生のとき教わらなかった?」

「怪しい人に関わっちゃいけないとは教わった」

「あー、それ大事だよね、今の世の中物騒だし」


うんうんとひとりで頷く隣の怪しい男に、わたしは何も言い返すことが出来ない。

正論を述べられたときじゃなく、完全に的外れなことを言われたときほど、何も言い返せないものなんだ。

身を以て実感、そして溜め息。



ついさっきのことだ。

偶然、かどうかは知らないけれど、街でこの男と出会って。

明らかに変な人だとはわかっていたけれど逃げずにいたら「俺を拾って」なんて馬鹿みたいなことを言い出して。


それで、本当に、本当に、なんとなくだけど。


なぜあの大勢の人ごみの中でわたしを選んだかわからないこの男に、なんとなく、妙な感じを覚えて。

妙な、っていうのは、怪しいとか、そういうんじゃなくて。

もちろん怪しいのに違いはないんだけど、でも、それだけじゃない、なんだか、懐かしく、思えて。

この、冬眞という男とわたしは、紛れもなく、初対面のはずなのに。