言葉が出なかった。

頭が痛い。

なんでこんなものが、わたしの、前に。


「気になってたから、大家さんに聞いて、貰って来たんだ……ご両親からの手紙、ひとつも読んでないんだろ。ちゃんと読めよ、瑚春に宛てた、手紙だぞ」


散らばった中からひとつを手に取り、冬眞はそれを、わたしに向けた。

その手紙はいつのものかはわからないけど、色褪せた文字は、最近のものにはとても見えない。


いつからか、時々届くようになった両親からの手紙。

一通も読まずに、処分してきたはずの、手紙。


「……いら、ない」

「そんなはずない。本当に要らないなら、自分で捨ててたはずだろ。わざわざ大家さんに頼んでたのは、捨てる勇気がなかったからなんじゃないのかよ」

「…………」


まさか、それこそそんなはずがない。

だってあの人たちは、わたしから大切なものを奪ったんだから。

何よりも大切なきみを。


もう、家族になんて戻れない。

わたしはもう、二度と、生まれたあの町には戻らない。


二度と。



「瑚春、ちゃんと、読むんだ」



差し出された手紙。

見覚えのある懐かしい文字。

褪せた封筒。

古い消印。


頭の奥で巡る、こことは違う、故郷の風景。