冬眞の手を振りほどいて、乱暴にドアを開けて中に入った。
嫌な予感がした。
ずくずくと頭に響く鼓動を振り払うように首を振って、電気すら付けずに部屋の奥に走る。
カーテンのない部屋の中には、月明かりが薄く滲む。
自分の荒い呼吸の音が耳に届く。
それだけが、部屋の空気を震わせている。
……両親が来ているのかと、一瞬、思った。
無いことは無い。
彼らはわたしの居場所を知っている。
そして、もしも冬眞がわたしの両親を知っていたとしたら、なおさら。
───パチン、と音がするのと同時に部屋に明かりが点いた。
少し眩んだ目で物の少ない部屋の中を一度だけ見渡す。
やっぱり何も変わったことなんてないいつもと同じ空間に、ひとつ無意識に息を吐いた。
繰り返す嫌な鼓動を、落ち着かせるように胸に手を当てて、だけど、ふと、テーブルの上に置かれていた紙袋に目が行った。
その瞬間は、それが何かなんて、考えられる程に頭は回らなかった。
ただぼうっと、意識なんてしないまま、見知らないであろうそれを見つめていて。
だけどふいに、その袋の中身に気付いた途端、治まりかけていた心臓の音が、頭の中に、強く響いた。
大きくはない紙袋の口からのぞく、封の閉じたままの角。
貼られた切手に、いつかの消印。
宛名に書かれた、わたしの名前。
「大家さん、全部保管してくれてたよ」
わたしの横を冬眞が通り過ぎていく。
コートを脱いだ長い手が、わたしの視界の中心にあったものを掴んで、テーブルの上で逆さにする。
紙袋の口から、雪崩のように落ちてくるもの。
狭いテーブルに放射状に散らばる何種類もの四角い封筒。
両親がわたしに宛てた、手紙。