いつもの帰り道。
コンビニに寄るのだけを忘れた、いつもの帰り道。
星の昇る空の下、なだらかな坂道をのぼっていく。
小高い丘の上にあるモダンなアパート。
2階建ての、上の階の一番端、そこがわたしがこの街に来てからずっと暮らしている場所だった。
ここは、山に囲まれた内陸の、大きなわけではないけれど賑わいのある街。
5年前、生まれた海辺の町を離れてから、なんとなく居ついたこの場所で、わたしはひとりで生きている。
街の中心部を少し離れたこの丘は、住宅街が広がっていて随分静かなところだった。
5年前まで名前すら知らなかったこの街に、やって来たのは本当に偶然だったけれど、この場所の静かな雰囲気が気に入って、ここに住むことを決めた。
街を見下ろせる坂をのぼって、のぼり切った先にあるロータリーを抜ければ、わたしの家が見えてくる。
いつもの、今の、わたしの、帰る場所。
「へえ、あそこがあんたの家? かわいいアパートだね」
後ろから聞こえる声に足を止めずに振り返る。
すると愛想よくにこりと微笑まれるから、わたしはすぐさま視線を戻した。