わたしは冬眞のことを知らない。

冬眞はわたしのことを知らない。


そう思っていた、そのはずだった。


今までも、これからも、わたしたちは一切関わり合うことのない人間だった。


だけど、そうじゃなかった?

知らなかったのは、わたしだけだった?


知らないふりをして、たまたま出会ったような顔をして。



冬眞は、出会う前から、わたしのことを……




「あ、そう言やぁ……」


ふと店長の手がわたしに伸びて、左の耳元の髪を掻き上げた。

ぼうっとしていたわたしは避けることも出来ずに驚いて、だけど店長はそんなわたしを放ってくしゃりと笑う。


「ほんとに開けたんだなあ、お前」



一瞬考えて、ああ、と思い至った。

昨日冬眞に無理やり開けれられたピアスのことだ。


「ガーネット、冬眞もこれが誕生石なんだってな」

「そんなことより店長、わたしの誕生日、無断で教えないでくださいよ」

「いいだろうがそれくらい」


店長の手が、今度は右側に伸びる。

だけどそっちの髪を掻き上げると、不思議そうに首を傾げた。


「あれ、こっちは開いてねえの?」

「……もうひとつは、冬眞が着けてます」

「え、なんで?」

「一緒に開けたんです。わたしが開けたくないって言ったら、じゃあ俺も開けるからって言って」


冬眞の勝手に流されてしまった昨日のことを思い出すと、無意識に苦い顔になってしまう。

そしてやっぱり店長は、わたしと反対の顔をする。