「そうだ、瑚春」


突然何かを思いついたらしい店長の声が弾む。


「なんですか?」

「冬眞に手伝ってもらえばいいよ。そしたら仕事、はかどるだろ?」

「冬眞、ですか」

「ああ。暇なんだろ、あいつ」


給料はちゃんと出すから、と。

本人に聞いてもいないのにすでに店長はそのつもりらしく、これなら安心だなあとかなんとか独り言を言っている。

たぶん、今思いつく前からそう考えていたんだろう。

いつも海外に行く間、わたしがひとりになってしまうことに対して妙に心配する人だから。

だけど。



「……だめですよ、あいつは」


ヴィンテージの布を詰め込んだ段ボールを、ガムテープで閉じて印をつける。

さっきから手が止まっている店長の近くのものも、ついでに空いている箱に詰め込んだ。


「だめって?」

「……冬眞は、いつ居なくなるかわからないじゃないですか。そもそも、何もかもよくわかんない奴なのに、信用したらだめですよ」



そう、冬眞が一体“誰”なのか、それをまだわたしは知らない。

今まで何をしていたのかも、なぜここに居るのかも、何もかもを知らないんだ。


たまたま出会って一緒に居るけど、きっと出会ったときと同じように、突然居なくなってしまうような気もして。


それを止めるつもりはない。

あいつが居なくなるのなら、好きにそうしてくれればいい。

冬眞は冬眞の勝手に生きて、またこれから先、ずっと、二度と、関わり合わずに生きていく。


わたしたちはそういう関係。


きっと、何の繋がりもない、運命でも偶然でもない、ふとした弾みの、巡り合わせ。