「で、今回はどこに行くんですか?」
「予定では、スイスとオーストリア」
「良いのたくさん仕入れてきてくださいね」
「まかしとけって。お土産買ってきてやるからな」
「別にいらないです」
「つれねえなあ。あ、そうだ、どうせだったら一緒に行くか?」
「遠慮します」
「つれねえなあ」
帰ってきたら店内の商品をごっそり入れ替えるため、今のうちに店頭の品をある程度片付けておく必要があった。
今後店に出さない商品は、ひっそりとやっているネットショップのほうで売るのがいつもの流れだ。
店長がヨーロッパに直接買い付けに行って選んでくるのは意外にも趣味の良いものばかりだったから、多くの人に見てもらえるネットでの通販は存外繁盛していて、出品したものは毎回あっという間に売れてしまった。
「今回も、俺が帰ってくるまでに全部売っとけよ」
「無茶言わないでください。結構準備とか梱包とか、大変なんですからね」
「瑚春なら出来るさ」
「店長がわたしの何を知ってるんですか」
むすっと作業をするわたしの横で、店長はにこにこと嬉しそう。
一緒に居るのに正反対の表情を浮かべているのはいつものこと。
そういえば、冬眞と居るときもそうだったような気がする。
わたしが勝手に機嫌を悪くしているときも、あいつはいつも笑っていた。
そう、ハルカもそうだった。
わたしが泣いたり、怒ったりしているとき、ハルカはいつだって笑っていて。
わたしが笑うと、そのときは、ハルカも一緒の表情だった。