「今日は仕事だよね」


スープをずずっと無作法に啜っているわたしに冬眞が言う。

こくりと頷いて、だけど少し考えてから嫌な顔をしたわたしに気付いたんだろう、小さく笑った。


「大丈夫。今日は連れてってなんて言わないから」

「……あたりまえ」

「ほんとは行きたいけどね」

「絶対連れてかない」


この間はおどしに屈してしまったけれど、今日のわたしはそう易くはない。

というか、毎度毎度付いて来られてたまるか。


「こっそり行くのはアリ?」

「ナシ」

「……今日はここで大人しくしてまーす」

「別に出て行ってくれててもいいよ」

「何言ってんの。俺が居ないと寂しくて泣いちゃうくせに」

「わたしが居ないと食いっぱぐれる奴なんて居なくても問題ないよ」

「つれないねえ、瑚春」


冬眞が、空になったふたり分の食器を重ねながら、くしゃりと顔を歪めて言う。

わたしは大きく溜め息を吐いて、片付いていくテーブルに頬杖を付いた。

「行儀悪いぞ」と言う冬眞の声は、聞こえていない振りをして。

食器がたてるカシンという乾いた音を聞きながら、ぼうっと、どこでもないどこかを、見ていた。




……昨日見たばかりの夢が、まだ頭の奥に貼り付いている。

いや、あのときのことが一度たりとも心を離れたことはないんだけれど。

それでも、あまりにも生々しく、音も、匂いも、痛みまでのすべてが鮮明に、この場に留まっているものだから。


体の真ん中にある心臓が、耐えきれなくて悲鳴を上げてる。

もうやめてって叫んでる。


あんな思いは二度としたくない。

決して失くしたくはないけれど、それでも、苦しくてたまらないから。


だからわたしはもう一度、その思いを、深く深くに沈めて隠す。



二度と、浮き上がっては来ないように。