「トウマ」


男が答えた。

とても柔らかな響きだった。


「冬に、真実の真を旧字で書いて、“冬眞”。それが俺の名前」

「……とうま」


季節の入った名前は、わたしと同じだった。

この男も冬に生まれたのだろうかと、そんなどうでもいいことを思った。


無意識に、手が自分の首元に伸びる。

服に隠れた鎖骨のすぐ下。

そこには、もう10年以上も前からずっと着けている、ネックレスが下がっている。


血のような、真っ赤な石のネックレス。



「ねえ、瑚春、お願いがあるんだけど」


何度か繰り返していた言葉を、目の前の男──冬眞は、もう一度口にした。

わたしは何も答えないままその姿を見上げていて、冬眞は、まるで古い友人にでも語りかけるかのように、静かに目を細め、言った。



「俺を連れて行って」