「……瑚春?」

「……」


無意識だった。

片方の手で、服ごと胸元のそれを握り締めて。

もう片方の手で、冬眞の手を、掴んでいた。


「どうした。まだ痛い?」

「……そうじゃ、ない」



手のひらに、さっきまでとは違う嫌な汗が滲んでいた。

上手く吐き出せない息を、どうにか、無理にでも吐き出して、呼吸をする。

胸元の手に、心臓の動きが直接伝わる。



『これが結んでくれる。俺とコハルが、どんなときでも、きっと、離れ離れにならないように』




そう言って、でも、きみは消えてしまった。


離れないって言ったのに、それでも、きみは。



「大丈夫か、瑚春。なあ」


心配そうな声を出す冬眞を、見ないまま、でも、強く手を掴んでいた。



そうしないと、きみみたいに、今にもわたしの前から、消えてしまいそうで。



そんなわけはないのに。

そんなことあるわけないのに。


消えたとしても、こいつは、きみじゃ、ないのに。




「瑚春……」

「大丈夫、ごめん。何もない」



そう、こいつはきみじゃない。



きみじゃ、ないんだ。