ガシャン、と機械的な音が響いた。


ゆっくりと力を抜いて耳からピアッサーを外すと、少し赤くなった耳たぶの真ん中に、もともとピアッサーに付属していた透明な飾りのピアスが付いていた。


力を抜きすぎた手から、役目の終わったピアッサーがことりと落ちる。

カーペットの上に転がったその存在は、だけどその瞬間にはもうすでに、わたしの頭から綺麗に消え去ってしまっていた。


「……冬眞、大丈夫?」

「大丈夫、思ってたよりも痛くなかったな」

「そう、なんだ」


血も出ていないし、変な付き方もしていない。

なんとか上手く出来たみたいだ。


「お、すごい綺麗な場所に付いてるな。思った通りのところだ。さすが瑚春」


冬眞が置いていた手鏡を手に取って嬉しそうに言う。

わたしは、今になって滲んできた手のひらの汗を、ばれないようにカーディガンの裾で拭った。


「じゃあ、次は瑚春の番ね」

「……明日にしようか。もう遅いし。お腹減ったし」

「何言ってんだ。言っておくがこれを済ませなきゃ今日の飯はねえぞ」

「なにそれ! 条約違反!」

「条約ってなんだよ。いいからほら、耳貸して」


左の耳たぶに、ひやっと冷たい感触がする。

消毒の匂いが鼻の奥に突き刺さるみたいだ。


「小さいな、瑚春の耳は」

「開けにくいでしょう」

「薄いから、開けやすいよ」

「そんな馬鹿な」

「観念しろよ、そろそろ」


くすぐったい笑い声が、耳の側で聞こえた。