「……ねえ、冷やしたりとかしなくていいの? よく言うじゃん、氷当てておくって」

「そんなの耳が腫れて逆にやりにくくなるだけだって」


いつもは髪に隠れてよく見えなかった冬眞の耳は、あらためて見るととても形の良いものだった。

これからそれを傷つけてしまうと考えると、随分と気が重い。

だけどそんなわたしを置いて、冬眞はひとりで着々と準備を整える。

消毒液を左耳につけて、だいたいの位置を確認、あとは、開けるだけ。


「じゃあ瑚春、よろしくね」

「……ほんとにやるの?」

「あたりまえ」


髪を掛けた冬眞の横顔が、わたしの目の前にやって来る。

もうやるしかないのか、と溜め息を漏らして、わたしもようやく意を決した。

震えそうになる手で、ピアッサーを掴む。


「変な場所に開けるなよ」

「わかってるよ。動かないで。今場所合わせてるところだから」


思う場所に開けるのは案外難しいと、学生のときに聞いたことがある。

だけど、やり直しは効かないわけで、つまり、失敗も出来ないわけで。


「……よし、じゃあ、行くよ」

「ああ……目、つぶるなよ」

「……」

「今つぶってたぞ……大丈夫かよ」

「まかせろ……」


息を吸って、深く吐き出す。

それからもう一度吸って、呼吸を止めた。


集中して、一気に、ピアッサーを持つ手に力を込めた。