「瑚春」
被っていた布団の上に、冬眞が手を乗せる感覚がした。
分厚い布と綿を挟んでも、それはわたしに伝わってくる。
「大丈夫」
何がなのかは、わからない。
だけど冬眞は、きっとなんの根拠もなく、わたしにそう言う。
狭く閉じられた小さな小さな空間の中、心臓の音が、ちくちくと鳴っている。
「半分こしよう。ふたりでひとつ」
息を止める。
指先がひやりと冷たくて、それを慰め合うように、両手を合わせる。
瞼を閉じる。
暗闇には何も浮かばない。
胸元の、固いものを握り締める。
ずっと大切にしてきた贈り物。
いつか、半分こした片割れのひとつ。
わたしたちの目印。
見失わないための、必ず辿り着くための、目印。
止めていた息を、少しずつ吐き出す。
心臓の音が、どくんどくんと鳴っている。
のそりと、布団から顔を出すと、すぐ側に冬眞の顔があった。
冬眞は、きっと不機嫌な顔であろうわたしと目を合わせると、わたしとは正反対に、顔をくしゃりと歪めて、笑った。