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コーヒーの湯気が、ゆっくりのぼって消えていく。
わたしの甘い香りのそれとは正反対のブラックを、冬眞は一口こくりと飲んだ。
カップが置かれる。
テーブルを挟んで向かいに座っている冬眞が、背中に隠していた場所から、何かを取り出した。
「はい、プレゼント。お世話になってるお礼です」
それは、薄いピンクの袋。
手のひらよりも小さいくらいのサイズのそれは、口を可愛らしい赤のリボンで止めてあった。
だけど、それ。
リボンの中央に、小さな造花を付けたそのラッピングを、わたしは見たことがある。
と言うか、毎日している。
「……これ、うちの店のじゃないの?」
「うん、正解。昨日、貰った給料でこっそり買ったんだ」
「……今日、プレゼント買いに行ったんじゃなかったっけ?」
「それはまた別のがあるんだって」
聞いてないぞそんなこと。
いつの間に勝手なことしてたのか知らないけど、わたしの見てないところで余計なことをするのはやめて欲しい。
そもそも自分が働いている店の商品を貰ったところで、素直に喜べるもんなのか。
そういうところをこいつは、考えないのか。
「とりあえず先にそれ、見てよ」
じとっとした不審な目に気付いたのか、そうではないのか、無視しているのか。
冬眞の指が、早くしろとでも言わんばかりに袋を指すもんだから。
わたしは訝しむ気持ちを前面に顔に出しながらも、綺麗に結ばれていたリボンを解いた。