「なあ、瑚春」
冬眞が言ったのは、坂道の終わりが見え始めたときだった。
坂をのぼりきった先にあるロータリーの、中央に生えた金木犀が顔を出す。
「家に帰ったら、プレゼントをあげるよ」
「うん、知ってる」
つま先が小石を蹴る。
転がったそれを今度は冬眞が蹴って、どこか遠くに飛んでいった。
確か昨日も同じことをしたなと、ふと思う。
「なあ、瑚春」
隣で、冬眞が空を見上げた。
わたしは顔を伏せていたけれど、なんとなくわかった。
「俺は、これまでにいくつも、いろんな人からプレゼントを貰ったけれど」
坂道の頂上。
小さなロータリーに、斜めにオレンジの光が差す。
「その中で、たったひとつだけ、とても大切な、贈り物を貰った」
ゆっくりと、日が落ちていくのに合わせて、オレンジが狭くなっていく。
影とオレンジの境界線が、波が寄せるようにここへ近付く。
わたしは、その境界線に沿うようにして、視線を上げる。
その先に、冬眞が居て。
鮮やかな色に映されたその笑顔が、あまりにも綺麗だったから。
「そのプレゼントは、俺の、世界を変えたんだ」
わたしはなんだか、泣きそうになった。