“明日”を、まるで希望のような存在に人はしたがるけれど。
そんなもの、何もしなくたって、夜が明ければ容易く側にやって来る。
頼んでもいないのに、空は気付けば薄くなって。
闇に隠れる小さな体を、嘲笑うかのように日はまた昇る。
明日なんて来なくていい。
世界なんて止まればいい。
弱くて小さな心の中で、どれほど言葉を叫んでも。
返ってくる声などなくて、世界は、一瞬たりとも止まらず進む。
欠けているはずのこの世界は。
不完全なはずのこの世界は。
きみを失ったこの世界は。
居場所を失くしたわたしを置いて、どこまでも止まらず、流れ続ける。
「瑚春」
前から、冬眞がわたしを呼ぶ声がする。
さっきまで後ろに居たはずのに、いつの間に追い越されていたのか。
だけど、立ち止まってわたしを振り返る冬眞を見て、ようやく自分が足を止めていたことに気が付いた。
「どうした?」
「なにもないよ」
再び歩き出す。
ゆるい坂道を、足元を見ながら一歩一歩のぼっていく。
わたしが横に並んだところで、冬眞も同じように、隣を歩いた。