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冬眞は両手に紙袋を持って、わたしは片手にトイレットペーパーをぶら下げていた。
少し日が暮れかけたオレンジの坂道を、ゆっくりゆっくりのぼっていく。
「これで当分、着替えには困らねえな」
斜め後ろから間延びした声がして、わたしは振り返らないままそれに答える。
「領収書きってあるから、あとで返してね」
「体で払うよ」
「結構です。金で払え」
「素直じゃないなあ、瑚春は」
冬眞がからからと笑う。
わたしは何も返さない代わりに小さなため息を吐く。
それが白く濁るのを見て、まだ寒くなるのかなと思いながら、足を止めないまま、ふいにガードレールの向こうに目を向けた。
眼下には広い街、その向こうには街を囲む低い山脈があって、そのさらに奥には、沈もうとしている夕日が見える。
大きく燃える、空を丸く切り取る緋色の太陽。
いつか、生まれた町でよく見ていたものと、まったく変わらないおんなじ景色。
世界が、ひとが、刻一刻と変わっていくのに。
それだけはいつまでも、何一つ変わらないでそこに在る。