「……なら、わたしに頂戴よ。宿代と食費として受け取ってやる」

「嫌だよ。ちょっと俺、買いたいものができたんだ」

「いやって。そんなこと言える立場かお前」


だけどなぜだか、冬眞はかたくなにそれを寄越そうとはしない。

寝起きでまだ動きがのろいわたしのタックルをひらりと避けて、それから大事そうにもう一度、コートのポケットにそれを仕舞った。


……まったく、一体何が欲しいのか。

大した金額も入ってないと思うのに。


「よし、じゃあ何が欲しいか教えてくれたら、そのお金はあんたの好きにしていいってことにしよう」


我ながら、神のように大らかで優しい人格に惚れ惚れする。


「やだ。まだナイショだもん」


このやろう、フライパンで殴り倒してやろうか。


ぎりりと睨むわたしの心を知ってか知らずか、冬眞は楽しげに笑ってわたしに言う。


「あとで教えるよ。だって瑚春へのプレゼントだから」

「プレゼント?」

「ああ。だからまだ、秘密なんだ」


人差し指を立てて、それを自分の唇に当てる。

その仕草がまるで小さな子どもみたいで、だけどからかわれているのは自分の方のような気もして。

もやもやとした面倒な思いが頭の中を駆け巡るけど、それは寝起きの脳みそにはちょっと酷だったから、とりあえず何も考えないことを決め込んだ。