また食料品の買い出しにでも行きたいのかと思ったら、どうやらそうじゃないようだ。
生意気にも冬眞は、普通に“休日”のお買い物に行きたいらしい。
「無一文の癖に何言ってんだ」
「お金ならあるよ」
寝癖だらけの髪を掻きながら洗面所に向かおうとしたら、冬眞がそんなことを言いだすもんだから足を止めた。
振り返ると、にっこり笑う冬眞がいる。
……お金がある?
いやいや、そんなはずはない。
だってこいつはお金どころか身分証も何も持っていなかったんだ。
初めて会った日に、持ち物はパンツまできっちり調べたから、見落としているはずもない。
「あ、疑ってるね」
「いやむしろ、金があるならとっとと礼だけ置いて出て行けって思ってる」
「ひどいなあ瑚春」
間延びした口調は、ちっともそんな風には思ってないみたいだ。
そのまま冬眞は、壁に掛けていたモッズコートに手を伸ばす。
ポケットから出てきたのは、いちご柄の長細い封筒。
わたしはそれに、見覚えがある。
「昨日、店長さんから貰ったんだ」
「……いつの間に」
「なんか俺のおかげで繁盛したからってさ。俺はいらないって言ったんだけど、いらないなら瑚春にあげろって」
ひらひらと振られるファンシーな柄のその袋は、わたしが毎月貰っているものと同じもの。
今どき手渡しというアナログな方法で渡されるわたしの給料は、いつもそれに入っている。