春霞が笑うと、いつも猫っ毛がふわりと揺れる。
さらさらなのにやわらかくて、撫でるとすごく気持ちいい。
だから、たぶん、春霞はよくわたしの頭を撫でるんだ。
だってわたしもおんなじ髪質だから、さらさらでふわふわで、さわるとなんだかほこほこする。
おんなじ髪の毛、おんなじ感触。
まったく違うのに、おんなじものを持って、一緒に生まれてきたわたしたち。
そのたったひとつの奇跡が、世界中のいろんなものを、わたしにとくべつに見せる。
「……なんかこの石、かわいく見えてきた」
「コハルは単純だね」
「そこがわたしのいいところなんだと思う」
「そうだね」
春霞が、わたしの頭をよしよしと撫でる。
このときの春霞の手は、まだわたしのそれとそんなに変わらなくて、とてもとても小さいのだけれど。
そんな何も掴めない心許ないはずの手が、わたしにとっては何よりも安心できる場所で。
きっとこの先、お金をなくしてホームレスになったとしても、目が見えなくなったとしても、全身がもじゃもじゃになってゴリラになったとしても。
たとえどんな辛いことがわたしに降りかかったとしても。
この手さえ、春霞さえ側に在るならば、わたしは生きていけるんじゃないかと、なんとなく、本気で、思った。