それはなんだか不思議な響きだ。

近くにいるからとか、そういうのじゃなく、その声だけが異質なものみたいに、喧騒とは全く別に、わたしの耳に届く。


この男のことは知るわけがない。

もちろんこの男も、わたしのことなんて知るわけがない。


なのにその響きは、ずっと前から、知っていたもののような気がして。


いや、知っていた、というよりも。


待っていた、もののような。




「……コハル」


自然と、そう言っていた。

こんな見ず知らずの怪しげな男に、素直に答える必要なんて微塵もなかったはずだけど、わたしの口からは自然とそう漏れていて、漏らしたん途端、しまったと後悔して。

後悔したところで遅いと、一瞬の後に、諦めて。


「ふうん。字は、どう書くの?」

「……珊瑚の“瑚”に、季節の“春”」


それで、“瑚春”。

春とは言い難い真冬の季節に生まれたわたしに、両親が付けた名前だ。


「そうか……」


男の唇が小さく動く。



「 瑚春 」