「かなしいね」


土で汚れた手を見つめて、わたしはきっと、何を考えるでもなくそう言った。

ただかなしかった。

ついこの間まで元気に回し車を回して、えさをくれとわたしたちに愛嬌を振りまいていたみそが。

今はもう、いないなんて。



「かなしいね」


春霞が、わたしの言葉を繰り返した。

同じように土で汚れた手のひらで、少し盛り上がった山を、慈しむように撫でて。



「でもきっと、この思いはいつか宝物になる」



それは、小さな小さな響きで。

あまりに頼りなくて、願いとも希望とも違っていて。


「宝物?」

「今はすごくかなしいけど、いつかきれいな思い出になって、またきっと、笑えるはずだ」

「忘れるのはいやだよ」

「忘れるわけじゃない。みそはいつまでもそばにいる」


そばにいるんだ。


刻むように、春霞はもう一度そう言って、静かに両手を合わせた。

わたしもそれを真似して、汚れた手のひらをぴたりと合わせて、真っ暗な視界の中で天国に行ったみそのしあわせを願い、ついでに明日のテストで満点とれますようにと、祈った。