帰り道は、いつもどおり手を繋いで帰った。
近所のおばさんがわたしの顔を見てぎょっと驚いていたけれど、「どうしたの!?」と詰め寄ってこなかったのは、わたしが泣きまくってすっかりすっきりしたおかげでゴキゲンな顔をしていたからだろう。
「瑚春ちゃん、春霞くん、気を付けてね」
とちょっと窺うような笑顔で言ってきたのは、なんとなく印象に残っている。
もうすぐ家に辿り着こうというとき、鼻唄を歌っていたわたしに、春霞が言った。
「今日は、悲しくて、悔しかったでしょう」
わたしはそれに、嫌な顔を返す。
「やめてよ、今いい気分だったのに。もう忘れるの、それは。あとあのバカ大将のことも」
「バカ大将のことは忘れていいけど、でも、もったいないから、今日のことは覚えていようよ」
春霞がわたしを見る。
わたしはなんとなく顔の力を抜いて、春霞を見つめ返す。
「いつか、忘れたころに俺に話してよ。そしたらさ、ふたりで思い出してお腹かかえて笑い合おう」
あと、そうだね、こないだのぼこぼこにされて池に落ちたことも。
春霞が言う。
わたしは「笑えるわけねえだろ」って返すけど、春霞はただにこにこしているだけだ。
だからわたしももう何も言わない。
春霞の手を軽く握り直して、それから、ちょっとだけ空を見上げてみた。
夕暮れ時の空は怖いくらいに赤くて、それよりもちょっと薄いダイダイの、雲がいくつか浮かんでいた。