屋根の向こうに、夕日の頭がぎりぎり見えた。

家までの近くて遠い帰り道を、わたしは春霞と一緒に帰っていた。


春霞は、片方の手でわたしの汚れた手を握って、もう片方の手で、びしょ濡れのわたしのスニーカーを持っている。

水を吸い過ぎて歩くたびにじゅくじゅくいうのが気持ち悪かったので、わたしが公園で靴下ごと脱ぎ捨ててきてしまったからだ。


道路にはアスファルトの欠片がいっぱい転がっていて、裸足で歩くにはなかなかに険しい道だった。

だけど体中を怪我していて痛かったから、今さら足の裏の痛みなんて気にはならなかった。


わたしはまだ半分泣いていて、鼻水もびよーんと垂らしたままで。

だけど春霞の手だけはしっかり握り返して、置いて行かれないように隣を歩いた。


ずずっと青っ洟をすする。


「ハルカ」

「なに?」

「なんでハルカは、泣かなかった?」


すすったはずの鼻水が、再びびよーんと長く垂れる。

それを見てか、はたまた別のことでか、隣で春霞が小さく笑う。


「何を泣くの?」

「ガキ大将にいじめられて、悲しくなかった?」

「悲しかったけど……まあいっかって」

「何がまあいっかなの」

「泣くほどのことじゃないし、それに、ほら、コハルが代わりに泣いてくれてる」


わたしを覗き込んだ春霞の目の中に、ぐちゃぐちゃなわたしの顔が映っている。

それは、目の前にあるまだ少し似ている顔とは、まったく正反対の表情で。