春霞は黙ってわたしを見ている。
呆れているのか困っているのか。
双子なのに、わたしはいつも、きみの気持ちがわからない。
「コハル」
春霞が呼ぶ。
春霞がわたしを呼ぶ声が、わたしはとても好きだった。
いろんな人がわたしを呼ぶけど、春霞の呼ぶ声だけはなんだかいつも違って聞こえた。
春霞の声は、まるでもとからわたしの一部みたいで、じんわり響いて溶けて沁みる。
きっと、まだ十分に体が出来上がる前から呼び合っていたから、いつの間にか芯の方に染み込んでしまったんだろう。
春霞の手が、頭に付いた葉っぱを取った。
春霞はわたしを見て、いつもみたいに、笑っていた。
「ありがとう」
春霞の声が聞こえた瞬間、春霞の姿が見えなくなった。
目からぼたぼたと涙が出る。
それは頬を伝わず下に落ちて、池の水で濡れそぼっていた短パンをもっと濡らした。
「うわあああああん!!」
大声で泣いた。
涙も声もかれなくて、いつまででもそこで泣いた。
春霞は、ずっと、わたしの側に居た。