長い間、静かな時間が続いた。

冬眞はじっと、写真の1枚1枚に見入っていたのかもしれない。


だけど、しばらくして。



「瑚春、この人は、だれ」



問い掛ける声がした。


それにわざわざ答えるのは億劫で、潜った布団から出るのも面倒で。

だけど。


「赤ちゃんの時からいつも一緒に写ってる。ひとりだけの写真なんて、ほとんどないくらいに」


それだけで、誰のことを訊いているのかわかったから。

わたしは布団の隙間から顔を出して、眩しい光の下にいる冬眞を見た。

冬眞は、わたしを見ないまま、アルバムの中の1枚の写真を見ている。



一番最後のページ。


高校の卒業式の写真。

制服を着て、卒業証書の筒を持って、同じ顔で笑っている、わたしたち。




「……春霞」




まるで、自分の細胞のひとつのように、沁み込んだ、その名前。



何度も何度も呼んだ、大切な、きみの、名前。




もう、居ない、きみの、名前。






「わたしの、弟」