「どんな、ところ……って」

「この街じゃないんだろ、育ったの」


冬眞が首を傾げる。

生まれはここじゃないって言った覚えはないけれど、ひとりで暮らしているし、なんとなくそう思ったんだろう。


でも、だからって生まれた土地のことを訊いてどうするのか。

そもそも、そんなこと教えてやる義理すらない。


「どうでもいいじゃん、そんなこと」

「どうでもよくないよ。瑚春が生まれ育った町のことだ」

「それよりもあんたが誰だか教えてよ。そっちの方が重要だよ」

「俺のことはいいよ。俺は、瑚春のことが知りたいんだ」


いいわけない。

わたしのことなんかより、あんたのことをはっきりさせる方がよっぽど大事なことだろうに。


だけど、冬眞は、それでも、じっとわたしのことを見つめて。

そのせいでどんな文句だって、言ってやることが出来なくて。


でも、だめだ。


他の言葉すら、わたしの口からは出て来ない。

生まれた町がどんな場所だったのか。

どんな風に、わたしがあの町で過ごしてきたのか。


きっと冬眞が知りたいと思っているそのいろいろな記憶は、もう、口で語るにはあまりにも深いところに在り過ぎて。


どうしたって、何も、言えることはないんだ。