冬眞は、やっぱり笑っていた。

穏やかに、柔らかく、人の心に寄り添う顔で。


「悪いけど、知らないよ。俺が見てきた世界は、必ず、綺麗なものしかない」



ことり、とテーブルの上にお皿が乗る。

コーヒーの入ったカップと即席のスープも一緒に置かれて、今日の夜ご飯があっという間に出来上がった。


「はい、瑚春、召し上がれ」


ベッドの上に居たわたしの手を、冬眞の大きな手が握る。

のそりと下りると「ナマケモノみたいだな」と冬眞は声を上げて笑った。


その声を聞きながら、熱いカップを手に取った。

茶色い液面を覗いて、そしたらそこに、わたしの顔が映っていて。

その顔が、やっぱり、ひとつも笑えていなかったから。



ああ、そっか、やっぱり、そうなんだよね。

こんな痛みを抱えたままじゃ、笑うことなんて、出来るわけないんだよね。


やっぱり、あんたは、知らないんだ。


何も知らないから、綺麗な世界しか見ていないから。

そんな風に、笑えるんだね。


だとしたら、やっぱり、わたしは。




「ねえ、瑚春、俺からもひとつ訊いていい?」


ふいに冬眞が口を開いた。

わたしがつと目を向けると、冬眞は、少しだけ目を細めた。


「瑚春が住んでたところって、どんなところ?」