「お兄さんさ。サッカー上手だったの?」
「ん? ああ、習ってたしな。腕が落ちてなきゃ、多分まだいけると思うんだが。見せてやろうか?」
「でもお仕事なんじゃないの?」
「昼休み中だから大丈夫。ダイジョーブ」
リーマンは組んだ足を解くとジャケットを脱いだ。
で、俺の手からサッカーボールを取って地面に落とすと軽く腕前を見せてくれる。
「おぉお!」俺は感嘆の声を上げた。
だってお兄さん、めっちゃサッカーが上手い。
蹴り上げる動作も滑らかだし、ボールがお兄さんの足に引き寄せられるように落ちていくし、なによりボールを巧みに操ってる。
スーツなのに、革靴なのに、そんなにもボールを操れるなんて、習ってたのは伊達じゃないみたいだ。
感動する俺に得意気な顔を作ったリーマンは、後ろからボールを蹴ってフィニッシュだというように自分の前に飛ばしてキャッチ。
思わず拍手、生のサッカー選手を目の当たりにしたくらい感動した。
すっげぇ、今の、俺にもできるのかな?
好奇心から早速チャレンジしてみたけど、後ろに蹴り上げて、そのまま俺の頭に直撃するだけの結果になった。
衝撃で帽子が脱げ落ちる。
「あはははっ!」
俺のお手並みに大笑いしてくれるリーマンは、帽子を拾いながら良い腕前だと揶揄してくれた。
「坊主、その腕前じゃ三年は掛かるぞ」
「だって、サッカー習ってないんだから仕方がないじゃんか。もっかいしてよ、ワザは見て盗めって言うし」
簡単に盗まれたらこっちの立場がないって、笑声を噛み締めてリーマンはボールを地面に落とすよう指示。
言われたとおり地面に落とした俺はリーマンの動きを見つめた。
動き難いスーツ、革靴でも、なんであそこまで綺麗にボールが上がるのか意味が分からない。
動きやすさなら俺の方が上手(うわて)なのに。経験の差ってヤツか。
十二分にワザを盗み見たと判断した俺は再挑戦。
物の見事に蹴り上げたボールを見失い、キョロキョロ、ゴンッとボールが頭部に降ってきた。
「アイッテーッ!」悲鳴を上げて頭を押さえる俺に、これまたリーマンは爆笑してくれた。
畜生、下手くそだって言いたいんだな!